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で肺野の80%が無気肺となり、残った左肺に胸水、高度のリンパ管症があった。上胸部痛と強い呼吸困難は持続するが、モルヒネ持続皮下注240mg/日およびリンデロン経口16mg/日で、車椅子散歩し食事全摂取ができ、野球をTV観戦する時もあった。しかし、「負けたくない、悲しい」「息が止まる不安が急に襲ってくる」と言い、強い不安、チアノーゼ、不整脈を伴う呼吸困難パニックが時々出現した。
第21病日からモルヒネ吸入5mg2回/日を開始し、呼吸困難パニックに対しても頓用で吸入したが、苦痛は変わらなかった。家族、医療者が側にいて話を聞いた。妻は24時間患者の側にいた。患者が薬の増量を拒否し増量せずにいたこともあり、呼吸困難は続いた。第27病日、妻に「もう頑張るのはやめた」「結婚してよかった」との言葉を残し、永眠された。
〔症例3〕(図3)
55歳女性。13年前に乳癌で右乳房切除術を受ける。2年前に肺転移。入院時酸素毎分3lにて酸素飽和度97%。呼吸数20回。胸部X線上肺は右中葉腫瘤と胸水、両下葉リンパ管症があった。第3病日に初回モルヒネ吸入を行ったが咳込みが強く続き中断した。喘鳴を伴う強い乾性咳に対してモルヒネ経口90mgから180mgに漸増していった。眠れるようになり歩いて院内散歩ができた。また趣味の刺繍、ボランティアの押し花教室で過ごせた。
第21病日頃から右閉塞性病変が進行し無気肺となり気管支肺炎を繰り返した、気管支拡張剤およびモルヒネ持続皮下注90mgでも呼吸困難が持続し常に起座位で過ごした。その頃ある人に「2週間後にまた来ます、楽しみにしてます」と言われ、それまで生きると待ち続けた。そうして再会が実現できた。すでにトイレ移動以外は傾眠がちになっていた。家で飼っている室内犬が合いにきた。第45病日に再度モルヒネ吸入を試みたが患者が希望せず中止した。生きる希望となっていた再会の3日後、穏やかに永眠された。
まとめ(表1モルヒネ吸入による効果)

表1モルヒネ吸入による結果

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症例1:癌性リンパ管症中等度の場合は有効であった。
症例2:呼吸困難感の(不安)パニックには有効でなかった。
症例3:気道刺激が強く継続できなかった。
考察
1.モルヒネ吸入の効果、症例から
有効だった要素を考えると、症例1においては、有効気道面積としてまだ両上葉が残っていた。下葉に炎症、繊維化、胸水があったが中葉の癌性リンパ管症が中等度であった。このような間質性の水分病変のときは、仮定肺内オピオイドが肺胞−水分感受性J受容体と関係すると示唆されており3)、モルヒネ吸入が肺内局所作用で働きやすい病態だったと推測される。
また前胸部から側胸部にかけての広い胸壁浸潤と中等度以上の腹水による拘束性の障害が前景であったため、呼吸ができない(呼吸筋が動かない)、苦痛が緩和され、患者は呼吸数減少と浅呼吸で楽になった。この効果が全身投与の量を増やさずに得られた。同時に副作用の眠気や吐き気等、この時期に患者が望まない症状を抑えてQOLを保つことができた。そして苦しい時に施行でき、速やかに効き、朝吸入すると安楽椅子で午前中過ごせた。一回吸入の量は初回量5mgで10

 

 

 

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